医学界新聞

寄稿 久保田隆文

2022.11.14 週刊医学界新聞(レジデント号):第3493号より

 専攻医は,専門医取得のために症例報告を書く方が多いと思います。しかし,症例や論文の書き方に関する良書があっても症例報告を書けない方を,私自身,数多く見てきました。この原因はどこにあるのでしょうか。私は,症例報告出版に必要な専攻医の資源を適切に利用する指針(=専攻医にとっての戦略)がないからだと考えています。これまで私は,専攻医としてフルタイムで働きながら,年間10本以上の論文を出版してきました。そうした経験に基づき,どんな専攻医でも1年以内に症例報告がアクセプトされる取り組み方を今回はお伝えします。

 症例報告の目的が,専門医取得要件を満たすことにある方もいるかもしれません。けれども,もっと大事な目的があります。それは,①世界中の現在と未来の患者・医療従事者への貢献,②自分と周囲の臨床・研究能力の向上,③知的好奇心の維持・向上です。この目的を達成するための具体的な目標が,「報告に値する症例を担当してから1年以内に英文誌にアクセプトされる」になります。

 目標達成のためにスキルばかりに目がいきがちですが,それだけでは論文化はできません。重要なのは戦略です。戦略とは資源の利用指針を指します1)。論文化に必要な資源は,モチベーション,習慣化,メンター,症例,論文化スキルの5つ。資源の利用指針は,Phase 1:モチベーションを高めて論文化の習慣を作り,Phase 2:メンターの助けを得ながら症例を見極め,Phase 3:スキルを向上させながら論文化するという3Phaseです)。

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 どんな専攻医でも1年以内にアクセプトされる症例報告の取り組み方

Phase 1:最初は,論文化する上で土台となるモチベーションの向上と,安定して進められる習慣化を身につける段階です。

●内的・外的要因の2つを使ってモチベーションを高める

 モチベーションには内的要因(知的好奇心,楽しさなど)と,外的要因(専門医の要件,昇進,見栄など)があります。論文を書き続けるには,内的要因を高めつつ,外的要因を用いるのが有効です。内的要因の代表である好奇心が強いほど,研究者の生産性が高いことが知られています2)。さらに好奇心が高いほど,多くのアイデアを出し,独自のアイデアが創出されることがわかっています3)。好奇心は5種類(ストレス耐性,社会的好奇心,欠落感,心躍る探求,高揚感の追求)に分けられ,ストレス耐性と社会的好奇心が社会的成功と特に関係しています4)。そのため新しいことに取り組む姿勢や困難に対するストレス耐性,レジリエンスを高めることが重要です。

 一方で,内的要因が低いけれども,外的要因によって論文を書くこともあります。米国では良いポジションを得るために論文を書くことがよくあります。こうした外的要因も強い動機になるので,上手く取り入れるべきです。例えば原稿完成時やアクセプト時などにご褒美を設定しておくのがお勧めです。結果が出るようになると楽しくなり,内的要因が強くなることもあります。

●固定時間を確保して習慣化する

 研究の固定時間確保が勝負の要です5,6)。日本の内科プログラムに所属する後期研修医を調査した研究では,研究の固定時間が学術的な業績に関連する最大の因子でした6)。固定時間確保の最初のステップは,1週間のスケジュールの見直しです。非生産的な時間を週3時間以上洗い出した上で確保し,研究のための固定時間として適切な時間帯にずらします。私の場合,平日夜の無駄な時間を早朝と休日に移行していました。

 次のステップは,固定トリガーの発見です7)。「起床→コーヒー→論文執筆」のように,日常生活で必ず行う行為をトリガーとして研究活動を始めるのです。ここで重要なのが,1日に割く研究時間がどんなに短くても,研究活動を行ったら自分を即時に褒めて,報酬系による行動の強化を行うことです7)。また,インプットやアウトプット(リサーチクエスチョンや執筆単語数)の量などの記録によって,研究の進捗を感じることが継続につながります5)

Phase 2:次は,経験のあるメンターと論文化できる症例を見極める段階です。

●施設内外からメンターを探す

 メンターの役割は,新規性と臨床的意義の見極め,出版の道筋作りです。条件として,PubMedにfirst and/or corr esponding authorで症例報告を出版している人が該当します。面倒見も良くレスポンスの早い方が理想でしょう。周りにいない場合は,指導医に許可を得て,他施設やオンラインを駆使して探します。お勧めは「症例報告(case reportとclinical picture)を書こう」というFacebookグループへの参加です。大きな研究コミュニティに属すると筆頭論文の増加につながるため8),何らかの研究コミュニティに入ることも重要でしょう。

●論文に値する症例は7つの新規性と3つの臨床的意義から見極める

 論文化できる症例では,新規点を見つけ,臨床的意義を導き出す必要があります9)。まず2次文献(教科書,UpToDate,review)で,似たような症例があるかを調べます。見つからない場合はPubMedで調べましょう。PubMedで30例未満であることが論文化の1つの目安となるはずです。30例以上の場合,何らかの要素を入れてさらに絞り,既報と本例を比較する表(背景,症状,経過,検査所見,治療,予後)を作成します。そして,既報との違い(=新規点)を7つの視点から考えます9)(図)。新規点が見つかったら,そこから導かれる臨床的意義を1つ考えます。臨床的意義はインパクトの大きい順に3つあり,①臨床医の行動を変えるか(診断・治療方針が変わる),②意識を変えるか(ピットフォールやアラートになる),③知識を増やすか(後で役立つ新規の知見の提供)です。

Phase 3:最後は書きながらスキルを磨いて論文化するPhaseです。症例が決まったらメンターに相談し,投稿先を3つ決めます。見つからない場合,The Biosemantics Groupが提供するJaneに論文タイトルを打ち込むと,過去の似た症例と掲載雑誌がわかります。見当がつかなければ,Internal Medicine, QJM, BMJ case reports, Clinical case reports, Cureusなどが良いです。

 投稿先が決まれば,投稿規定を確認して書き始めます。執筆スキルとして,①ロジカルな文章の書き方10),②英語での文章の書き方11),③論文・症例報告の書き方9,12)の3つの要素を学んでおくと良いでしょう。また,似た症例報告から学ぶことも有用です。論文執筆を効率化するため,翻訳ツールの「DeepL翻訳」や文章校正ツールである「Grammaly」,パラフレーズをチェックする「QuillBot」などを駆使して文章を作成します。完璧な文章をめざす必要はなく,完成したらメンターや共著者に修正してもらいます。修正が終わったら,英文校正サービスを使います。投稿してrejectなら次の雑誌に,revisionなら真摯に対応します。ついにアクセプトされたら,自分の頑張りを褒めてあげてください。そして,共著者の方々にお礼をしっかり伝えましょう。


1)音部大輔.なぜ「戦略」で差がつくのか。――戦略思考でマーケティングは強くなる.宣伝会議;2017.
2)Acad Med. 2005[PMID:15734804]
3)Kaufman SB. Wired to Create:Unraveling the Mysteries of the Creative Mind. Tarcher Perigee;2016.
4)トッドB.カシュダン,他.好奇心の5つの類型.Harvard Business Review. 2018;12:48-52.
5)ポール・J・シルヴィア.できる研究者の論文生産術――どうすれば「たくさん」書けるのか.講談社;2015.
6)Intern Med. 2019[PMID:30918184]
7)Fogg BJ. Tiny Habits:The Small Changes That Change Everything. Harvest;2020.
8)J Gen Intern Med. 2019[PMID:30350026]
9)松原茂樹.論文作成ABC――うまいケースレポート作成のコツ.東京医学社;2014.
10)山﨑康司.入門 考える技術・書く技術――日本人のロジカルシンキング実践法.ダイヤモンド社;2011.
11)前平謙二.アクセプト率をグッとアップさせるネイティブ発想の医学英語論文――プロ翻訳家が伝えたい50の基本動詞と読めるのに書けない英語表現.メディカ出版;2017.
12)河本健,他.トップジャーナル395編の「型」で書く医学英語論文――言語学的Move分析が明かした執筆の武器になるパターンと頻出表現.羊土社;2018.

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国立病院機構仙台医療センター脳神経内科 専攻医

2016年聖マリアンナ医大卒。手稲渓仁会病院,札幌西円山病院での研修後,19年米Case Western Reserve大へ留学。21年に帰国後,東北大神経内科分野に所属し,脳神経内科・てんかん分野を中心に臨床・研究・教育を行う。22年より現職。Twitter ID:@TakafumiKubota

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